著者:長池涼太(ブラック企業研究家)
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ブラック企業に関する発信や活動をする中で最近思うのは、現在ブラック企業で苦しんでいる人を助けるのはもちろんそもそも被害に遭う人を出さない点で、ブラック企業の啓蒙も重要だと思うようになりました。
啓蒙にもいろんな手段や対象がいますが、特にこれから就職をするであろう学生にブラック企業のことを伝えるのが良いと思いました。さらにその中でも「労働法」のような労働に関わる法律などの知識を伝えることで、そもそもブラック企業の被害に遭う可能性を下げられるのではないでしょうか?
今回は労働法を学ぶ意義やこれから就職する人が最低限抑えておいてほしい労働法の知識を解説しました。
ブラック企業に騙されないために労働法を学ぶ
みなさんは、「労働法」ということばを聞いたことがありますか。そういう名前の法律があるわけではありません。労働基準法や労働組合法をはじめ、男女雇用機会均等法、最低賃金法など、働くことに関するたくさんの法律をひとまとめにして「労働法」と呼んでいます。
知って役立つ労働法 働くときに必要な基礎知識|厚生労働省
「労働法」は特定の法律の名前ではなく、労働基準法を筆頭に労働に関わる法律の総称です。労働法を学ぶことで労働問題などの被害を防いだり、被害に遭ったとしても最低限に抑えられます。
2024年12月に茨城大学人文社会科学部の「労働法」の授業でブラック企業やキャリアに関する解説をしてきました。僕の授業では経験談メインだったため法律の話をあまりしませんでしたが、元々労働法の授業では労働基準法など労働に関わる法律を学んでいます。
法律というと弁護士などの専門職を思い浮かべる方も多いと思いますが、どんな仕事をするにしても労働をするうえで労働基準法など労働周りの法律は切っても切れない関係にあります。たとえば茨城大学においてもバイト先で学生が労働問題に遭遇することはあるそうで、実際に給与の未払いも発生していたとのことでした。
最終的に、その店は一度閉業することになり、アルバイトは全員解雇。その店では10人以上の茨城大学の学生が働いており、多い人で30万円、全員合わせれば300万円ほどの給与未払いがあることが分かりました。まだ未払い分の支払いの目途はたっていません。
ブラックバイト問題について考えるワークショップ-労働ルールを学び、身を守ろう|茨城大学
こういうときに各種労働法を知っておくことであらかじめ被害を防いだり、被害に遭ったとしても最低限に抑えられるなど労働法を学ぶことは意外とメリットが多いです。

だからこそ、僕も今後は現在ブラック企業の被害に遭ってる人はもちろん、これから就職する学生向けに予防的な意味合いでブラック企業、キャリアに関する講演や講座ができればとも思っています。
労働法の中で重要なポイント
労働法というとかなり幅広いですが、特にこれから就職する学生に向けては以下のことは絡む可能性が高いので、ぜひ知っておいてほしいと思います。
内定取消と労働契約成立
法律上は内定が出た時点で労働契約が成立しているとされています。企業からの「採用内定通知」は、労働契約上の合意を意味し、学生側が承諾すれば契約が成立します。正当な理由がない限り、企業側は内定を一方的に取り消すことはできません。内定を取り消すことが可能なケースとして、
- 単位不足などにより留年、卒業できなかった
- 重大な経歴詐称が発覚した
などが考えられます。ただし、内定取消の正当性が認められなければは法的に無効とされるケースが多くあります。内定取消のリスクや対処法を事前に知っておくことが、安心した就職活動につながります。
賃金と最低賃金の保障
最低賃金はすべての労働者に適用される法的な保障です。地域や業種によって定められた最低賃金を下回る賃金を支払うことは違法であり、たとえアルバイトやパートであっても例外ではありません。たとえば茨城県では令和6年10月からは最低賃金(時給)1,005円と定められています。当然ながらこれを下回る時給で求人を出したり、労働させたりするのは違法です。

各都道府県で最低賃金は異なります。厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧で各都道府県の最低賃金が掲載されているので確認しておきましょう。
就職前に勤務予定地の最低賃金を確認し、提示された条件が基準を満たしているかを確認する習慣を持ちましょう。また、労働契約の中であいまいな給与体系や歩合制が含まれている場合は注意が必要です。一部の会社では、「給料は働きぶりを見て決める」と言うこともあるそうですが、給料などの労働条件はあらかじめ明示するのが必須です。
契約内容を文書で明示してもらい、入社後に給料を下げるなど不利益な変更には必ず同意が必要です。
労働時間と残業のルール
労働時間は「1日8時間、週40時間」が原則でしかも上限とされています。これを超えて働く場合は法的に「時間外労働」として扱われ、残業手当の支払いが義務付けられています。また、企業が従業員に残業を命じるためには、労働組合などと「36協定(サブロク協定)」を締結し、労働基準監督署へ届出を行う必要があります。
残業代の未払いは違法であり、泣き寝入りせずに相談することが大切です。長時間労働が原因の体調不良やメンタル不調にもつながるため、適正な労働時間の管理は非常に重要です。

残業代未払いの場合の請求の時効は3年なので、万が一あとから請求する場合はお早めに。
有給休暇・休暇制度
年次有給休暇は、正社員だけでなく条件を満たせばアルバイトやパートにも付与されます。雇用開始から6か月間継続して勤務しかつ所定労働日の8割以上を出勤していれば、10日の有給休暇が付与されます。有給は労働者が自由に取得でき、取得理由を会社に告げる必要はありません。
企業によっては有給休暇を取得しづらい雰囲気があるかもしれませんが、取得を妨げる行為や取得後の不利益取扱い(嫌がらせ等)は法律違反です。健康的に働くためには、計画的な休暇取得も欠かせません。
ハラスメントや不利益取扱いへの対応
職場におけるハラスメントの防止と妊娠・出産・育児休業に関する不利益取扱いの禁止は、法律で厳しく定められています。たとえば妊娠を理由に契約を打ち切る、育休取得希望者に圧力をかける行為は明確な違法行為です。
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(第9条第3項)
またパワハラ・セクハラ・マタハラといった行為は、就業環境を著しく悪化させるため、企業には相談窓口の設置や再発防止のための措置が義務付けられています。被害に遭った場合は、労働局や専門の相談窓口への連絡をためらわないことが重要です。一人で悩まず、法律に基づく支援を活用しましょう。

労働局はいろいろ相談に乗ってくれて、ひどい場合は「あっせん」などをすることもあります。
まとめ
- 労働法を学ぶことで労働問題の被害を最小限に抑えたり、未然に防げるメリットがある
- 内定取り消しはよほどの理由がない限り無効
- 最低賃金を下回る賃金(時給)はNG
- 労働時間は「1日8時間」「週40時間」が上限
- 有給休暇は正社員はもちろんバイトも取得可能
- ハラスメントは相談窓口の設置や再発防止のための措置が義務になっている
特にこれから就職する学生においては仕事のスキルやキャリア観も大事ですが、労働法のような法律の知識を優先して身につけてほしいと思います。
ブラック企業時代の僕は労働法等の知識がなく、自分の職場がブラック企業という自覚もありませんでした。だからこそ被害を受ける期間が長引いたり退職後も後遺症が残る形になってしまいました。そもそも20代という貴重な時間の大半をブラック企業に捧げてます。
これから未来がある若い皆さんにはぜひ労働法の知識を身につけて、僕のようなブラック企業の犠牲になる人が一人でも減れば嬉しいです。