著者:長池涼太(ブラック企業研究家)
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ブラック企業研究家として活動している中で以前から気になっているのが「退職代行」。本人に代わって会社に退職の意思を伝える業者で年々利用が増えているらしいです。
特に最近は入社したばかりの新入社員が入社数日、早ければ入社した日に使うケースもあるそうで退職代行はトレンドの一つにもなっています。
退職代行の業者の数は年々増えていますが、一方で退職代行は本当に退職できるのかや使う上での法的な問題や安全性に関しては使ったことがない立場からするとどうしても気がかりな部分もあります。退職代行は本当に良いものなのかリスクはないのかなどを解説しました。
新入社員の退職代行利用が増えているらしい
新年度が始まって3日目ですが、すでに新入社員からの退職依頼が相次いでいます。なぜ、入社直後に辞める決断をしたのかを追いました。
(中略)
入社式のあった1日の時点で5人。さらに2日には8人、そして3日には18人、計31人(3日午後3時時点)が退職代行を依頼し、去年の倍になっていると言います。
去年の「倍」 入社直後になぜ?相次ぐ退職依頼
ここ数年話題になっている退職代行ですが、年々利用者は増え続けているみたいです。僕が会社員をやっていた10年前は退職代行がなかった時代でしたが、今は100以上の退職代行の業者がありSNSでも「退職代行を使って会社を辞めました」といった投稿が散見されてます。
退職代行を使った方が良いケース
前提として僕自身は退職代行自体はあった方が良い(あっても良い)と思っています。主な理由として割合としては少ないながら退職を会社に伝えることで暴力を振るわれるなど危険を伴うケースもあり、それを避けるという意味では退職代行は有効だと考えています。
以下は僕が考える退職代行が特に有効だと思われるパターンです。
体調やメンタルの状態が悪く出勤が困難
たとえばうつ病など重篤な病気にかかった場合、この状態だとそもそも通常の業務や出勤が難しくて退職の意思を伝えること自体が難しいことも考えられます。
特に休職であったり、無断欠勤してしまうと会社側も同行が把握できなくなってしまったり心配になってしまうこともあるので、そういうときに退職代行とはいえ代理で安否や退職の意思等を伝えていただけるのはある意味ありがたい側面もあります。
パワハラなどのハラスメントを受けており退職の意思を伝えるのに危険を伴う
パワハラをしてくる上司って危険なもので、ことあるごとに部下のメンタルをえぐってくるような言動をしますし、稀ではありますが暴力を伴うケースもあります。
そういう上司や担当者がいると、自分で退職の意思を伝えること自体に危険を伴います。
そうしたときに退職代行は本人に代わって会社に退職の意思を伝えたり交渉などをしてくれます。
いくら退職を伝えても企業や担当者がまともに応じてくれない
また、パワハラまではいきませんが退職の意思を会社や人事などの担当者に伝えても相手にしてくれなかったり、退職を過度に引き留める、退職の意思を伝えてから嫌がらせをするなどのケースもあります。
この場合も個人でやったところでは話が進みづらいので退職代行に任せるのが得策です。
退職代行を使うリスク

「退職成功率100%」などを謳い、確実に退職できることを売りにしている退職代行も多いですが、実はメリットばかりでもありません。場合によっては退職代行を使ったが故のリスクも発生するので、それも踏まえたうえで退職代行は使いましょう。
同業他社に転職した場合、転職後も接点を持つ可能性はある
退職代行を使っても異業種経転職するならまだいいですが、同じ業界内での転職であれば元の職場と何らかの形で接点を持つ可能性があります。業界内の取引や交流会、人脈などを通じて再会するケースもあり、退職時の対応によっては気まずい関係になるリスクもあります。
僕も特に学習塾には4年勤めていましたが、塾業界は転職するときは同業他社への転職がほとんどで意外と他社の噂や情報も入ってきたりします。また、塾講師向けの説明会等もあったので同業他社にいると何らかの形で元いた会社と接点が生まれる可能性はあるということですね。
なお、塾に関しては当時の上司とも水戸の町中で鉢合わせしたことが退職後も実は何度かありました。円満退社だったので特に気まずい要素はなく、普通に世間話をしてましたがこういう感じで元職場と接点を持つことは意外とあったりします。

その他、短期間ですが建設業界や農業業界にもいましたがやはり同業他社の情報はそれなりに入ってくる印象でした。逆にいえば元いた会社と完全に接点を絶ちたいなら異業種への転職がオススメです。
次の転職先の企業の退職代行に対する認識や印象は未知数
退職代行の利用に対しては、企業によって認識や印象が大きく異なります。柔軟に受け止める会社もあれば、「自分で話さず辞めるのは無責任」と考える企業もあります。そのため、次の転職先がどう受け取るかは予測が難しく、不安要素になります。
僕自身が面接官や採用担当をやったときを想像して考えても、退職代行を利用した人の採用は多少なりとも慎重になりそうなイメージです。
前職を退職代行を使って辞めたことは言わない方が良いかもしれません。
出戻り転職は不可能に近い
退職代行を利用した場合、円満退職とは見なされないことが多く、将来的にその会社へ出戻る(出戻り転職。アルムナイ採用とも呼ばれる)ことは極めて難しくなります。退職代行を使うことは会社との信頼関係の断絶と受け取られるため、人間関係や社風によほどの変化がない限り、復職の道は閉ざされると考えておいた方がよいでしょう。
Aさんは「出戻り転職」の是非は、在職中の働きぶりや辞めるときの態度が大きく影響しており、万が一の場合に備えて「きれいに辞めること」の重要性を訴える。
「退職時に上司や同僚にきちんとあいさつをして、円満に退職し、社員や元社員との交流を維持できている人であれば、退職後も仕事をもらえたり、空きポストができたときに声をかけてもらえるんですよ。退職代行なんか使ったら、出戻りなんてもってのほかですからね。私は利用をおすすめしません」
転職エージェントが「退職代行」をすすめない理由 「もし出戻りしたくなってもできなくなる」

会社の良さに後々気づくことも多いので、衝動的に退職代行を使ってしまうのは避けたいところです。
実は僕の知人でも退職代行を使ってはないですが、元いた会社に出戻りした方が何人かいます。話を聞いてみると、いずれも元の会社と円満に辞めたり、元々の関係が良好だったことが大きかったようです。
非弁行為に当たる可能性のある退職代行
「退職」というと会社を辞めるだけのことのようにも思えます。
退職代行サービスと弁護士法違反|東京弁護士会
しかし、実際に退職するには、会社と話し合いをして決めておかなければならない事項もあります。例えば、事例の残業代、パワハラの慰謝料のほか、退職金、残っている有給休暇取得などの問題です。
これらは「法律的な問題」であり、業者が、本人に代わって会社と話し合いをすることは、非弁行為となる可能性があります。
また、非弁行為の問題だけではなく、「法律的な問題」について、正しい法律的な保護を受けることができない場合もあり得ます。
退職代行というと依頼者に変わって会社に退職の意思を伝えるというイメージがありますが、実際は残業代や退職金、有給休暇等の請求、会社の物品の返還に関するやりとりなど実は意外と事務的な面でやることも多いです。
その中で特に残業代や退職金など法律が絡むものは実は弁護士資格を持っている人でないと行ってはいけないと決まっており、たとえば僕のような弁護士資格のな人が法律が絡む交渉等を行うと「非弁行為」となり罰せられます。
「非弁行為」とは、ザックリと説明すると弁護士資格を持っている者しか行ってはいけないと法律で定められている行為(他人のもめごとに首を突っ込んで報酬を得ることなど)を弁護士資格のない人(または会社)が行うことです。
なんとこれは犯罪です。 非弁行為を行うと処罰されることになります。
非弁行為とは|札幌弁護士会
そして実は退職代行においても全部の業者が弁護士資格を持っている人がやっているとも限らず、中には単なる民間企業が運営している退職代行も多くあります。たとえばその場合に弁護士資格のない退職代行の社員等が交渉などを行うと非弁行為に該当する確率も高いです。

弁護士以外だと「労働組合」(労働組合が運営する退職代行)も企業と同様の交渉は可能です。
非弁行為に関してはあくまで退職代行業者が罰せられるので依頼者が罰せられることは基本的にないですが、ぜひとも退職代行の利用を考えている方は、弁護士もしくは労働組合が運営する退職代行を選ぶようにしましょう。
ちなみに「弁護士監修」「労働組合と連携」などと謳う退職代行もありますが、実態としては弁護士資格等のない退職代行業者が実務を行っていることも考えられるので、これらの文言は良くてもグレーという認識を持っておきましょう。
なお僕の主観ながら確認した感じ、以下の退職代行は弁護士もしくは労働組合が運営なので少なくとも非弁行為にあたる確率は低そうです。退職代行業界も少しでもクリーンになってほしいです。
それって本当に退職代行必要?
退職代行は普通に会社に退職の意思を伝える際にパワハラや暴力など危険を伴う場合には非常に有効だと思っています。
一方で調べていくと申し訳ないですが「そんなことで退職代行使ったの⁉」と思われるような理由もちらほらみられました。
- 「仕事が分からず聞こうとしたら『自分で考えろ』と言われ、今度は自分なりに考えていたら『仕事が分からないなら聞け』と言われた」
- 思っていた接客業務と違いやりがいを感じる機会がないと感じた
- 4日間食器洗いだけだったので辞めた(接客希望)
1に関しては僕も会社員時代に経験したので共感できる部分はあるのですが退職代行を使う理由としては弱すぎると思いました。もちろん先輩・上司の言い方ももうちょっとどうにかならなかったか?とは思いますが、結局この辺の感覚は時間をかけて培っていくものなので、たかだか1日や数日で見切りをつけるべきではないと思いました。
2と3に関してはやりたい仕事・職種に配属されなかったみたいですが、この点もやはり短期間で衝動的に判断するものではないですね。特に正社員の場合は、アルバイトなどと違って包括的に様々な仕事を経験することが多いですし、各職種や部署も定員はあるので全員が全員やりたい仕事に就けるとも限りません。
その点では少し老害のような意見かもしれませんが、必ずしも自分のやりたい仕事ができるとは限らないと最初から割り切って就職するのが得策ではないでしょうか。
退職代行は先述のハラスメントや嫌がらせなどがあった際の『最終手段』です。
まとめ
- 最近は新入社員ですら退職代行ですぐに辞めるケースが増えている
- メンタルがやられている、パワハラを受けている、退職を伝えても応じてくれないなどの場合は退職代行を使った方が良い
- 転職活動において前職を退職代行で辞めたことを伝えても、印象を悪くする可能性もある
- 退職代行は会社との関係性を「絶つ」意味合いもあり、出戻りは非常に難しくなるなどのリスクがある
- 残業代や退職金など法律が絡む交渉は弁護士や労働組合が運営する退職代行でないとできない。一般的な民間企業がやると「非弁行為」となり罰せられることがある
- 会社に落ち度はないのに、安易に退職代行を使うケースも出ている
退職代行や退職代行を使う人に対して思うところがあったことから今回の記事を書きましたが、それでもブラック企業研究家という立場ではパワハラ等の怖さも知っているので、退職代行そのものは有用な仕組みだと考えています。
一方で非弁行為にあたりそうなグレーな退職代行事業者や安易な理由で退職代行を使う人がいるのも事実としてあります。
みなさんのキャリアは退職して終わりではなく、退職以降転職などもずっと続きます。長い目で見て考えて退職代行を使うべきかや適切な退職代行を使うように注意しましょう。