著者:長池涼太(ブラック企業研究家)
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最近はブラック企業だけでなく大学生のバイトに焦点を当てた『ブラックバイト』たるものも問題になっています。
ブラック企業のバイト版ですが、こちらも長時間労働やハラスメント等による影響はブラック企業と同じですが、ブラックバイトは加えて大学生活にも支障が出ることがあります。
今回はそんなブラックバイトに焦点を当てて、ブラックバイトに引っかかる要素やブラックバイトを辞められない理由や被害を避けるポイントについて解説しました。
ブラックバイトとは?
ブラックバイトとは、ブラック企業のアルバイト版のような位置付けの言葉で、アルバイトの就業環境が劣悪、給料の未払いが横行するといった、アルバイトという弱い立場を利用され、正社員並みの業務や責任を求められながら働く職場を総称してこう呼びます。
これがブラックバイトですという定義はありませんが、もとは中京大学の大内裕和教授が提唱した造語で、NHKの「視点・論点 広がる”ブラックバイト”」や、「ブラックバイト 増補版:体育会経済が日本を滅ぼす」で登場したものだと言われています。
ブラックバイトは企業が学生はフリーターなどのアルバイト従業員に正社員並みの業務や責任を押し付け働かせることで、学業や日常生活に深刻な影響を与える悪質なものです。
ブラックバイトとは|主な特徴と学生も出来る法的対策ガイド|ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)
ブラックバイトというワード自体は2010年代半ばから出てきているようで、文字通りブラック企業のバイト版のようなものです。特に大学生のバイトに対して使われることも多く、ハラスメントや長時間労働、給料の未払いはもちろんそれに伴い大学への授業等への出席もままならなくなるなど、大学生活に支障が出ることもあります。
たとえば、先日僕が労働法の授業で登壇してきた茨城大学の学生においても数十万~100万円単位での給与未払いも発生しており、実は意外と身近なところでもある問題です。
その店では10人以上の茨城大学の学生が働いており、多い人で30万円、全員合わせれば300万円ほどの給与未払いがあることが分かりました。まだ未払い分の支払いの目途はたっていません。
ブラックバイト問題について考えるワークショップ-労働ルールを学び、身を守ろう|茨城大学
ブラックバイト自体は10年以上前からあった
僕が2011年から2016年まで塾講師をやっていましたが、塾業界では大学生に無理な労働条件を強いるような事案がありました。当時僕が耳にしたものだと以下のパターンが多かった印象です。
- 個別指導のバイトは給料が時給ではなく1コマ〇〇円という形で決まっていることが多いが、実際は授業前後に準備や報告書の作成など意外と業務が多い
- 授業とは別にバイトでも社員が出るような会議に出席しなければならない場合があり、しかも会議に出た分の時給は出ない、もしくは出ても数十円しか出ない
またシフト関係のトラブルも多く、週2日しか出れないと学生側が言ったのに週4日、5日入れることもあるなど。当時は個別指導塾のユニオン(労働組合)も結成されるなど、塾業界は大学生の塾バイトの扱いを見直すことになりました。
僕が勤めた塾はこのような事案はなかったですが、茨城県内でもとやらかしている塾が多かったらしく、改めて気を付けなければと思いました。
ブラックバイトに引っかかってしまう理由
経済状況の悪化・仕送りの減少
一番変わったのが仕送り額で,かつての12万円か8 万円台(全国は 7 万円台)に下がったことである。かつての仕送り額の中心10万円以上は 3 割を切っており, 5 万から10万が38.8%, 5 万未満が23.8%, 0 が8.0%,それくらい学生の経済状況は悪化している。
第126回 部門別研究会(人事部門)報告何故ブラック企業で働き続けるのか
昨今の景気の停滞との兼ね合いもあり、昔と比べると大学生への仕送りの額は減少傾向にあります。昔は生活費だけなら仕送りで賄えることも多く、バイトは旅行などプラスアルファくらいの立ち位置だったのが、今ではバイトもそれなりにしないと生活ができないような状況になっています。
そのためバイトに費やす時間も増えやすく、それだけブラックバイトに引っかかる可能性も高くなっているかもしれません。
奨学金の負担
奨学金の影響力もありますね。奨学金を学費や生活費等に充てることでバイトの時間を抑えることも可能ですが、それ以上に奨学金は大学卒業後の返済が待っています。
特に僕のように月に10万円を4年間借りてしまうと、利息も含む場合は通常だと月に2万円を20年間にわたって返済が続くこともあります。借りる奨学金を抑えたとしても数年単位で返済期間が発生するため、特にそこを分かっている大学生だとあえて奨学金を借りないもしくは借りても最低限ということもあります。
卒業後の返済の労力を抑えられる一方で、学生生活におけるバイトのウエイトがどうしても大きくなってしまうので、奨学金も良くも悪くも影響があります。
最終手段的な話ですが、奨学金の返還は月の返還を減額したり、返還そのものを一時的に止めるなど多少負担を減らすことは可能です。
労働状況の変化・大学生バイトが主戦力化している
かつて正規が行っていた責任の重い仕事を非正規が担い,バイトリーダー,バイトマネージャー,パート店長が普通になった。完全に責任者であり,明らかに基幹労働が非正規に拡大している。その結果,辞めたくても辞められない,休みたくても休めない,むりにシフトを組まれて,学生生活との両立ができない,というようになり,非正規労働者の急増による労働市場全体の劣化は,ブラックバイトを生み出している。
第126回 部門別研究会(人事部門)報告何故ブラック企業で働き続けるのか
最近は飲食業界など一部の業界はアルバイトが仕事の中心を担うケースも多いです。飲食店の場合、店長などマネジメントは正社員だとしても現場の店員などの多くはアルバイトが担いますからね。また、大学生に人気のある塾講師のバイトも特に個別指導の講師も同じく大半を大学生のバイトに頼るケースも多く、バイトがいないと回しづらい状況にあります。
昔は大学生のバイトというとあくまで「補助的」な立ち位置だったので、授業などで急に休んでもそこまで支障は出なかったですが、今は業界や事業所によっては大学生のバイトが授業などで休んでしまうと支障が出やすい状況になっています。
業界による傾向はありますが、大学生バイトがもはや補助ではなく仕事の根幹を担う状況もブラックバイトが生まれる要因の1つとも言えます。
労働基準法などワークルールの知識の不足
意外と忘れがちかもしれませんが、大学生のバイトであっても労働基準法は適用されます。
「労働時間は原則1日8時間、週40時間」「毎月決まった日に給料をちゃんと払う」など一般的に言われるものは正社員だろうとアルバイトだろうと同じです。
最近は大学生などに「ワークルール」を学ぶ機会を設けているところもありますが、これが本当に大事でワークルールを知るだけでもブラックバイトに引っかかるリスクを減らしたり、引っかかってもすぐに対処できるようになります。
厚生労働省で学生アルバイトの労働条件のチェックリストを設けているのでぜひ活用しましょう。
ブラックバイトを辞められない理由
アルバイトを辞めると生活困窮のリスクが高い
先述の仕送り額の減少などもあり、仮にブラックバイトだとしても辞めることで収入が途絶えて生活が困窮するリスクが高まることは考えられます。
そのため、自分のバイト先がいわゆるブラックバイトだとわかったとしても経済的なリスクを考えると辞めるに辞められないことが考えられます。
これは社会人になっても出てくる話ですね。僕もブラック企業を辞めるのに時間がかかった主な理由が辞めた後の経済的な不安でした。
過酷な労働環境による思考停止
大学生バイトの場合、生まれて初めての仕事(バイト)が基準になってしまうことも多く、仮にブラックバイトだったとしてもそれが普通だと思い込んでしまうこともあります。
また、アルバイトの長期の連勤や長時間労働に伴う睡眠不足などで疲弊しきってしまうと、思考力も落ちてしまい自分の職場がブラックだと認識しづらくなります。
精神的に疲弊しきって辞める気力がなくなる
ブラックバイト・ブラック企業の一番の対処法は「辞める」だと個人的には思います。現実問題、ブラックな職場に対して働きかけても改善されるのは非常にレアケースです。
ただブラックな環境で疲弊すると仕事以上に辞めることの方が重労働みたく感じてしまい辞めたり何らかのアクションを起こすのがおっくうになってしまいます。僕もブラック企業に勤めて感じましたが、仮に自分の職場がブラックだと感じたとしても、疲れ切っていると辞めようとは意外と思わないんですよね。
企業が大学生バイトに依存しすぎている
先述しましたが例えば飲食業界や塾業界(特に個別指導)は学生などアルバイトへの依存度が高いです。そのため学生が授業やゼミなどでアルバイトに出れない日があったとしてもお構いなくシフトを入れられてしまうことも多々あります。
またバイトリーダーやマネージャーみたく、ある程度重要度の高い仕事に就かせることで辞めることへのハードルを上げるパターンもあります。
その結果、ブラックな環境下で大学生が疲弊するのはもちろん授業やゼミなどへの出席がままならなくなり大学生活にも支障が出るリスクもあります。
特に理系の場合は実習や実験等の兼ね合いで学業のスケジュールがシビアなことが多いので、バイトの日程調整はより神経をつかうこと多いです。
ブラックバイトの経験が就活に有利になる?
就職活動において学生時代に取り組んだアルバイトについて聞かれることもあります。その際、『あえて』きついアルバイトに取り組んで、それをアピール材料として就活を優位に進めたい学生もいるようです。もちろん合法な範囲内でキツイ分にはまだいいのですが、明らかに法律を逸脱するようなレベルでキツイのは問題です。
もちろんそのような労働環境である会社が悪いのは大前提ですが、この点は学生の考え方にも問題があるかもしれません。
同時に特に体育会系の雰囲気が強い会社だとこのようなブラックバイトを乗り越えてしまった学生を好んで採用するケースも考えられるので、ここでいわゆる負のスパイラルのようなものもできてしまいます。
ブラックバイトは学生や企業など社会全体が作り出しているのかもしれない。
まとめ
- ブラックバイトに引っかかることで大学生活に支障が出ることもある
- 大学生がブラックバイトに引っかかる要因として昔と比べての経済状況の悪化や会社がアルバイトを主戦力として求めがちなどの理由がある
- ブラックバイトを辞めようにも経済的なリスクを考えたり、身体・精神的に疲弊しきると辞めようと思わなくなる
- ブラックバイトを乗り越えた学生を評価しがちな一般社会・就活にも問題がある
ブラックバイトは今に始まったことではなく、少なくとも10年以上は問題とされています。貴重な大学生活をブラックバイトには潰されたくないですよね。
今後もしっかりブラック企業、ブラックバイトの啓蒙を通じて労働問題で苦しむ人が少しでも減ればと思います。